テンカラの鬼。
渓流釣りもオフシーズンとなりロッドのメンテナンスや毛鉤の整理をしていてふと昔を思い出した。
思い出したのは自分が二十歳前後の頃だ。小学1年生の頃には渓流釣り(餌釣り)をし、小学生の5、6年生の頃にはテンカラ釣りをしていたと思う。以降ほぼテンカラ釣りのみだ。学校が休みの日は親父に早朝4時にイヤイヤ起こされ釣りに行き、学校がある日も夕方には連れ出され釣りをしていた。勉強は教わらなかったが渓流釣りに関してはスパルタ教育だった。そんなわけで否が応にもテンカラ釣りの技術はそれなりに上達した。当時二十歳前後の自分に親父が言った「あれは上手いぞ」。あまり他人の釣りを褒めたことがないのに珍しいなと思った。
テンカラの鬼。そう呼ばれている。親父がホームで釣りをしている時に出会ったらしい。面識ができ、それ以降家にちょくちょく鬼が現れた。それからしばらくして、ひょんなことから釣りに同行することになった。鬼は時々希望者にテンカラ釣りのレッスンをしているらしい。その日もレッスンのため自分がホームにしている川に来るらしい。
親父「お前も行くか?」
自分「どうするかな。(面倒くさいな)」
親父「いいから行くぞ。一度見てみろ」
自分「じゃあ行くか。(面倒くさいな。相変わらず強引だな。)」
こんな感じのやり取りだったと思う。
………道中の自分………
(だいたい、それなりに釣れるしロングラインも苦も無くキャスティングできるし)(-_-)←教わる身なのに偉そうだな
(そもそも俺の川で教わることなんてあるのかな)(-_-)←俺の川ではない、川は皆のものである
(まぁ一度くらい教わるか)(-_-)←本当に偉そうだな
などと思い釣り場へ。
場所は天竜川水系支流の本流。川幅があり急流。人気の場所で県外からも連日釣り人が来る〇沢地区〇軒家付近。ここには小学生時代から通い、自分にとってはホーム中のホーム。魚のいる場所、岩や石の場所、立ち位置、遡行の仕方等熟知している。)
記憶はあいまいだが4Mのロッドに7Mのラインだったと思う。
鬼「まずは振ってみて」
自分「はい。」ヒュッ!ヒュッ!
鬼「おっ!まぁまぁ振れるね。」
自分「ありがとうございます。(ちょっと嬉しい)」
鬼「好きにやってみて」
自分「はい。(ポイントの見極めと、攻め方を試しているのかな)」
こんなやり取りだったと思う。
鬼は無言のまま見ている。(怖ぇ〰よ)
対岸に分かりにくいが良いポイントがある。この場所をホームにしている自分にはそこに良型アマゴが高確率で居るのは知っている。
………自分は知っている。遠いのだ。今日の水量とタックルでは届かないことを。何度かチャレンジしてみる。届かないまでではないが、毛鉤を着水させると不自然な動きをしてしまう。不自然な毛鉤の動きを何度も魚に見せるわけにはいかない。
鬼「貸してみて。」
自分「はい。」
・鬼に自分のロッドを渡す。
・鬼の立ち位置は自分がいた場所。
・鬼の腕のリーチは自分とほぼ変わらない。
5,6回ほど空にラインが舞う。
鬼の目は先ほどまでの穏やかさは皆無。
………あっさり釣りあげたよ………(-_-)………←そもそも勝つ気でいたのか?
いや、釣るのはいいよ。何?そのキャスティング??
ダイナミックに弧を描くラインが着水時には穏やかな空気と一体化している。
届くの?いや、届くのはいいよ、その距離は毛鉤が不自然な動きをしないとおかしいでしょうが!(-_-)←逆ギレ?
その後じっくり見る。言いたいことがある(-_-)←完全に逆切れ。一つのポイントを狙う場合自分の立ち位置を変えて毛鉤を流し、さっきまで反応しなかった魚をおびき出す方法がある。同じ位置からもラインをコントロールし変化をつけることもできるが水流が邪魔をしたり、ラインの重さにより自分が思った様に毛鉤を操作するのは中々に難しい(自分もある程度はできると思っていた)………………この距離で操っているヨォォォォォォォォッ!!!
………何この鬼(人である)、上下前後左右自由自在かよ!!!
気になったことがもう一つある。釣りの基本もしくは奥義に【木化け石化け】がよく言われる。自然と一体化し魚に気配を悟られないようにすることだ。鬼の場合も確かに川へのアプローチは悟られないよう細心の注意を払っている。‥‥しかしそれは自分も同じだ。鬼は違う。アプローチからキャスティング、合わせ………目が違う。鬼の目は猛禽類の如く集中している。鷹の目だ。
鬼の技術と集中力の一部を垣間見たアッという間の時間でした。
二十年ほど前の思い出だ。鬼は今でも鷹の目だろうな。(追伸。釣りをしていないときはとても穏やかで優しい目でした。)